夢はその人の心の中から出てきます。心の深層から出てきた夢はその人に、今あなたはこのように生きていると告げていると考えます。そこで夢のメッセージを分析して、悩み考えているその人にあなたの心の課題はこうではないですかと投げかけます。その課題に対して今すぐは何も解答がありません。その答えはクライアントその人に求めるのではなく、夢に聞きましょうと提案します。夢分析で見出した課題の解答はまた深層の夢に聞くのです。すると次の夢が出てきます。その夢を分析すると次の課題というかテーマが出てきます。先の課題の解決には次のこのテーマを考えろと夢は示唆するのです。これを続けていくとついには自分の夢を生きていくことになります。
河合隼雄は『明恵夢を生きる』を書いて、自分の心理療法はこれだと言いました。夢を記録し、その夢を考えながら生きていくと、次々に夢が出てきて、結局夢を生きていくことになります。これで悩みは解決するとは言いませんが、だいたいうまくいくと河合隼雄は言っています。
私の夢分析も河合の方法と同じなのですが、夢、特に夢のシリーズを見てその中に繰り返し出てくるものがあって、その繰り返し出てくるものをクライアントが今生きようとしている課題と考え、それをどう生きたら良いかをまた夢の心に問うという形で次の夢を求めるところに私のやり方の特異なところがあります。夢でその人の課題を見つけその回答をまた夢に聞くという考え方です。こうするとクライアントは悩み考えて答えを出す必要がなく、漠然と夢で出された課題に考えを巡らして、夢を見るのを待っていると良いのです。自分を省みる力があればできるのです。夢を見るということは自分を省みることができるということです。自分を省みない人は夢を見ないし、進歩は覚束ないと思いますし、面接を重ねても効果がありません。
一方、夢の報告を受けるカウンセラーの方は、夢を聞いて、夢シリーズの中から夢が言わんとしていることを見出す仕事をしなければなりません。これはしばしば大変困難な作業です。夢を読んで報告してもらってさっぱりわからないことがしばしばあります。しかし、その人の生活状況と照らしあわせて考えを巡らしていると、もしかするとこういうことかもしれないと推測がついて来ます。このへんは推測と勘です。時には同席している配偶者や親の話が役に立つことがあります。あるいは、箱庭を作ってもらうと意外に箱庭にその人の今の中心的な問題が出てきて夢から感じ取っていたテーマに確信を得ることがあります。心のなかに浮かぶ連想を駆使して夢の分析に考えます。カウンセラーとしての苦しい作業です。
このやり方は、夢見ることは治ることである、遊ぶことは治ることであるという古代ギリシャの夢信仰とは裏腹で、当面している問題について夢に聞くということで、夢を見る人に主体性があり、また、夢が提出している問題を明らかにするカウンセラーの役割も重要という点で、心の深層への積極的な関わりがあります。この積極的な関わりなしに相手の人格の成長は無いと思います。
これが、深層の夢の心と対話する「対話的心理療法」です。カウンセラーには人の生き方への強い関心と広い視野を持った客観性と常に自分を省みる謙虚さが必要だと思います。