うつ病の心理

昨年と今年うつ病の心理療法の事例を学会に発表してきた。昨年そのうつ病の心理療法の事例を論文に書こうとして過去の文献を『心理臨床学研究』調べると何と過去にうつ病の心理療法の事例報告が無いことがわかった。(思春期の躁うつ病については論文が一つある)『精神療法』その他の文献で調べると医学系の論文は数多くあるかもしれないが、それはたぶん薬物療法によるものであろう。私は大学を退職して図書館が遠くなったのでそれらの文献の検索が難しい。

今年もうつ病の心理療法の事例を学会に発表しようと思うが、私のこのような研究発表は大変珍しい特異なことであることがわかった。

NHKはうつ病の患者が長期間抗うつ剤を投与されているのになかなか治らないことに関心を向け、以前にイギリスで行われている認知行動療法を紹介し、最近は集団認知行動療法を紹介した。しかし、それもおそらくあまり芳しくないことがわかるであろう。

うつ病の心理療法は難しい。

私の経験は数少ないけれど、その少ない事例から推測すると、うつ病の人々の心の世界は現実的、知的、理性的、合理的な世界が分厚くて、内的な、イマジネーションの生活、空想生活が意識下に埋もれ、大変貧困になっていると思う。

うつ病の人はまず夢を記憶することができない。ある人は寝言を家人が迷惑するほど言うのに夢は記憶できない。ある人は初回に短い夢を何十と報告したが次回からぱったりと見なくなってしまった。内界に関心を向けることにブレーキがかかったのである。

うつ病の人は抗うつ剤を10数年も服用し続けていることがある。それでも一向に改善しないし夢も見ないので、抗うつ剤によって夢見が抑制されているのではないかと考えて、抗うつ剤の変更を医師に頼んでみたらと進言した。そして抗うつ剤が変わったらその直後夢が一つだけ記憶に残った。しかし、次の回から夢は記憶されなくなってしまった。

このことから考えるとうつ病者の意識が現実的知的合理的でありすぎて、内的な心の世界のイメージ、非合理的非現実的情緒的な心を受け入れることができないと見ることができよう。

現在NHKが関心を抱いている認知行動療法は現実的知的理性的合理的な側面からのアプローチであるから内的なイメージの世界に入ることはあまりない。したがって、大して効果は期待できないのではないかと思っている。

それに対して、私は箱庭療法を強制的に適用し、箱庭を作らせイメージの世界に接するように仕向けている。うつ病の人々は箱庭制作が苦手である。それでも作ってもらうと何か出てくる。これに従ってもらうと次第に内的なことが改善されうつ病から回復がなされていくように思われる。

うつ病の人はサスペンスドラマや恋愛もの、お笑い番組、演劇、音楽、絵画、イベントなどイメージの演出するものを苦い薬と思って沢山経験してみてはどうでしょう。

そのうちにダンケでうつ病の人々の集団箱庭制作会を開いてみましょうか。関心のある方は意見をお寄せください。

 

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