前回に引き続き、忘れる、ということについて書く。
カウンセリングに通っている人の中で、今日はこの話をしよう、このことを言おう、と考えながら相談室にやって来るという人はけっこう多いようだ。ただ、部屋に入って実際に話し始めると、あらかじめ考えていたことをすっかり忘れてしまう。終わってからこんな話をするつもりじゃなかったのに、どうしてこうなったんだろうと不思議に思ったりする。
カウンセリングは一方的に話をするところではなく、対話の場であって、2人で話をすることに意味がある。最初はあらかじめ決めていたことを話題にしたとしても、2人で話をしているうちに思わぬ方向に話がすすんで行く。そうするとひとりでは思いつかなかったことや今まで見えていなかったこと、予想外の考えが出てくることがある。
もちろん、カウンセラーの方がこういう方向に話を持っていこうと考えているわけではない。カウンセリングに台本はない。毎回そこで実際に会って話をして、その時その場で2人の間に出てくるものが大事なのだ。ある意味、それは偶然の産物とも言えるかもしれないが、そこでたまたま出てくるものこそ大事なものだと思っている。
今までにない新しい方向性というのは、頭で考えて準備して作り上げていくようなものでもない。予定も予想もしなかった何かから出てくるものであって、だからこそカウンセリングでは、その時に感じたことや考えたことに対してなるべくオープンな態度でいることが必要なのだ。その場で偶然出てきたものは、日常生活では見えないけれど、カウンセリングの場だからこそ、今ここで2人で話をしているからこそ浮かび上がってきた何かなのだ。
言おうと思っていたことを忘れてしまうのも、言うべき話が他にあったからかも知れない。話すべきタイミングが今ではなかったかもしれない。本当に大事な話であれば、必要なタイミングで必ずその話を思い出すはずだ。話し忘れたことを悔やむ必要もないと思っている。
