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最良のタイミング

長谷川泰子

 

 あるユング派分析家の本を購入した。1994年、私が学生の頃に出版された本である。

 当時からこの本の存在は知っていた。発売当初から話題になっていたような気もする。改めて読んでみると、河合隼雄先生が書かれた、とても力の入った文章が第一章に付せられていて、河合先生がこの本をとても重要なものだと考えていたことが分かる。

 今まで気にはなっていたが、なんとなく敬遠するような気持ちもあって手にとったこともなかった。自分には合わない、自分の気質とは異なる傾向のことが書かれているような気がして、理解できないかもしれないとちょっと不安にも思っていたのだ。

 たまたま別の本を読んであれこれ考えることがあり、もう少し詳しく知りたいことがおそらくこの本に書かれているのではないかと思った。ネットで調べたところ定価より高い中古の本しか見つからず、少し迷った末に買ってみた。

 前述の通り河合先生が特別に文章を寄せられているのだが、そこではご自分の体験も語り、ずっとこのような本を出版しようと思いながらなかなかその気になれなかった、「大切なものほど、消化に時間がかかる。私が日本の読者に対して、本当に語れるようになるまでには、これだけの熟するための期間を必要としたのである」と書かれていたのがとても印象に残った。

 購入した本を読んでみて、この本は今読んで良かった本だと思った。学生の時に手に取っていたら、この本に書かれていることを一ミリも理解できなかったであろう。それどころか良くない理解をして、この本と真に出合う機会を逃すことになっていたかもしれない。今までのあれやこれやがあって、やっと今読めるようになった、私にとって今読むべき本だと思った。

 今まで読んできた本の中には、難しいけれど体力のある学生のうちにがんばって読んでおいて良かったと思う本もある。こういう本はその時には十分に理解できなくても強い印象だけは残って、あとから何度か読み返すことにもなった。しかし、今回購入した本のようにタイミングが重要な本もある。話題になっているからと無理に読んでも、なんの足しにもならない。

 昔、確か学習心理学の授業で、何事も学ぶべき最良のタイミングがあると教えられた気がする。何か特別な用語もあったように思うが、忘れてしまった。そのタイミングより前にいくら力を尽くして教えても、勉強しても、それ相応の成果は出ない。そういうことも確かにあると思う。その「時」がいつめぐってくるか分からないが、私は私のタイミングを大事にしていきたいと思う。

 

 

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