上がって下がってまた上がる

長谷川泰子

 

 カウンセリングでよく話すことだが、上り坂を一気に上がっていくように一直線に良くなっていくのは、かえって不安に思うことが多い。良くなったり悪くなったり、上がったり下がったりの繰り返しは、本人はつらくしんどいことであろうが、話を聞いているこちらの方はその方が確実で安心できる。

 一直線に坂を駆け上っていくだけだと、いつかまた調子が悪くなるのではないかという不安を抱えながら進んでいくことになる。そうすると一度立ち止まってしまったらもう進めなくなるのではないか、崩れてしまうのではないかと怖くなり、気軽に休むことが難しくなる。浮き沈みがあるのは普通のことで、いい時もあれば悪いときがあるのも当たり前のことだが、その当たり前が当たり前に感じられなくなり、坂道を登り続けないと不安で仕方がなくなる。必ずどこかでばててしまう。

 上がったり下がったりの繰り返しを何度も経験しておくと、調子が悪くなってもまた上がることがあることを信じることができる。じっと待っていれば状況が変わるだろうと体験で知っている。つらくても時間が過ぎるのを待とうという考えを持ち続けることが可能になる。

 だからこそ、少しでも早く問題が解決してさっと一直線に良くなること、変わることを望むかも知れないけれど、上がったり下がったりすることを何度も経験しておくほうが、時間はかかるけど確実です、と言いたくなるのだ。

 物事がうまく進まず、調子を崩すことはもちろんしんどい。気分は晴れない。イライラする。悲観的になる。周囲の人ともトラブルが起きやすい。いいことはないし、こんなことは経験しないで済むならその方がいいと思う。しかし、別の視点から考えてみると、物事が変化しているからこそ、こういう状態が起こってくるのではないかと思う。ほんの少しの変化かも知れないが、今までとは違うもの・今まではなかったようなものが出てきて、それが今まであったのものとうまくバランスが取れずにガタガタしているのではないか。あとから振り返るとそんなふうに考えられることも少なくない。

 新しい方向性が出てくること、変化していくことは前向きな進歩であることは間違いない。しかし変化を受け入れ、今までとは違う未知の世界に踏み出すことは大きなエネルギーを必要とする。それなりの勇気や覚悟も要るのだ。準備が整わないうちに前に進むことはできない。下がるからこそ上がることができる。がむしゃらに前に進むだけでなく、いったん立ち止まってゆっくりと力をためることも大事なことだと思う。

 

 

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