うらやましい

長谷川泰子

 

 今年度から新たに事例検討のセミナー(グループスーパービジョンセミナー)をはじめることにして、先日その第1回目を行った。発表された事例が素晴らしく、コメントも次々思い浮かんで、時間が足りないぐらいだった。いい事例発表を聞くと、よし私もがんばろうと思う。セミナーに参加することの大きなメリットである。

 どういうものが“いい事例”なのか説明は難しいが、少なくともさっと良くなったりすぐに問題解決したりするようなものがいいというような、単純なものではない。今この時に必要なことが起きて必要なことが話し合われることが大事で、うまく行っている事例だからこそ、あれこれと問題が起きたりすることも多い。例えば子どものカウンセリング、プレイセラピーを始めるときに親にも説明したりするが、セラピーを始めると、子どもの状態が前より悪くなったように見えることがしばしばある。以前より感情的になったり、わがままになったり、べたべたと甘えてきたりして、手がかかるようになるのだ。これは悪化や後退ではなく、元気が出てきたからこそ、今まで抑えてきたこと・出せなかったものが出せるようになってきているのだ。自分を押し出すパワーが出てきたのである。はじめは力の加減も分からないからパワーをコントロールすることもできず、周りとトラブルになったりすることもあるけれど、カウンセリング・プレイセラピーが進んでいくとよい方向に変化していく。大人のカウンセリングでも同様で、面接をはじめると問題に立ち向かうパワーが出てきて、今まで抑えていた気持ちや、見ないふりをしていたものをそのままにできなくなって、がたがたとすることがある。トラブルやもめごとはやっかいなことだけれど、それをきっかけに新しい変化が生まれてくることもある。

 ただし、これもいつも必ずそうだというわけでもない。穏やかに進行するカウンセリングも多々ある。その事例、そのクライエントに合った展開があり、このクライエントとこのセラピストだからこそ生み出される経過がある。毎回の面接も、全体の流れ・展開も、クライエントとセラピストの関係の中からいつも新たに作り出されるものだろう。

 いい事例を聞くと、正直に言って軽い嫉妬を感じる。いいな、うらやましいな、私もこういう仕事をしてみたいと思う。だからと言って、単純にまねをしたところで“よい事例”になるわけでもない。自分の目の前にあるものに私らしく取り組むことが、やっぱり大事だろう。

 

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