岡本太郎の体験

長谷川泰子

 

 愛知県美術館で開催中の「展覧会 岡本太郎」に行ってきた。“太陽の塔”などで知られる岡本太郎の作品が300点以上展示されている大回顧展とのことで、平日にもかかわらず見に来ている人は多かった。

 今から20年以上も前、川崎市にある岡本太郎美術館を訪れたことがある。たしかこの美術館が開館してすぐの頃だった。せっかくだからと東京の青山にあるアトリエ兼住居を保存した岡本太郎記念館にも行き、岡本太郎の作品をたくさん見たのだが、全く分からずに困った。特に絵画については一体何をどう見ていいのかさっぱり分からず、狐につままれたような気持ちで美術館を後にしたのを覚えている。

 そういう体験があったので、今回の展覧会についてもぜひ行きたいという熱心な思いがあったわけではない。時間もあるし、有名な人でもあるし、一応ちょっとのぞいておこうかぐらいの気軽な気持ちで出かけたのだが、前回に見た時とは印象はまるで異なり、前回さっぱり分からず困惑するだけだった絵画には特に強く惹かれ、こころを強く動かされた。すごいすごいとすっかり興奮して会場を出て、もう一度見たいとその後に再入場もして、最初から全部見直したほどだった。

 前回、川崎で見た絵もいくつかあって、今回もやっぱりよく分からなかった。しかし前回と違って、分からないながらも分からない何かに強くこころを動かされた。大きなエネルギーの塊を見たような感じだ。あれとかこれとか名前がつけられるようなものや、はっきりとした分かりやすい何かがあるわけではない。何かがうまれる前、明確なかたちを持つ前の一瞬の力のうねりを見たように思った。自分のこころの中にもおそらくあるに違いない、こういった言葉にならないエネルギー、原始的な力が強く刺激されたように感じた。

 

 以前の自分は同じものを見てもさっぱりこころを動かされなかったのに、同じ人間が同じものを見て、見え方や見た時の体験がこんなに変わるのかと驚く。単純に年をとったことだけではない、この20年以上の間に自分が体験したことや自分を取り巻く状況の変化など、いろいろなことが、ものの見方・感じ方にも大きな影響・変化を与えたのだろう。ということは、今自分が分からないと思うもの、つまらない、いやだと思うものも、また逆に素敵だとか好きだと思うものも、この先見え方・感じ方が変わることだってあるはずだ。

 岡本太郎を見て大興奮するような自分を歓迎する自分、面白がる自分もいて、いろいろと発見のあった展覧会だった。

 

 

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