どようのじき

長谷川泰子

 

 2年前にひどい腰痛を経験してから定期的に鍼に通っている。今は月に1回程度で、数日前に今年初めての鍼に行ってきた。

 いつもまず最初に最近の体調を聞かれる。少し前からなんとなく体調の変化を感じていて、例えば目や鼻が妙にむずむずして、アレルギーの薬を飲むほどではないけれどくしゃみが多くなっていた。まだ花粉症の季節には早いと思うけど、と話すと、鍼灸師さんに「今は“どよう”の時期ですから」と言われた。“どよう”が“土用”のことだと気がつくまでに少し時間がかかった。土用の時期は変化の時で、だからこそ体調を崩す、あるいはそこまでいかなくても、なんとなく不調を感じる人が多いようです、とのこと。

 土用、と言われても夏、土用の丑の日にうなぎを食べる、ということぐらいしか知らなかったので、改めてインターネットで調べてみた。土用、というのは五行の考え方から来ている暦上の4つの時期を指すのだとはじめて知った。年4回の季節が変わるタイミング、つまり立夏、立秋、立冬、立春の直前の約18日間を「土用」と呼ぶのだという。なるほど、そうすると確かに今は立春の前、「土用」の時期にあたる。

 ちなみに五行というのは中国に古くからある自然哲学の思想とのことで、この五行の考え方から、土用の時期には避けたほうが良いとされることが昔からいろいろあるらしい。例えば地鎮祭をしたり、井戸掘りを始めたり、転居や新居購入、旅行などは控えたほうがいい(ただし土用の期間中でも例外の日もあり、この日なら大丈夫という時もあるらしい)とされてきたようだ。迷信だと片付けてしまうこともできるが、季節の変わり目で変化も大きく心身ともに負担が増す時期だから、あまり大きなことをせず、普段と変わらない日常を送ることを心がけるべきだ、という昔からの生活の知恵と考えても良いように思う。そういえば“木の芽枯れ時”という言い方もある。季節の変わり目の時期でも特に注意したほうがいいという木の芽が吹き出る春、葉が舞い落ちる秋のふたつの時期を言い表したものだが、これも一種の生活の知恵・経験から出てきた言い方だと思う。

 こんなふうに土用のことをあれこれ調べていたら、確かに自分の体調の変化も、土用の時期に入った頃からのような気もしてきた。もちろんはっきりしたことは分からない。ただ実際、この冬から春への変わり目の時期があまり好きではないのは確かだ。季節の中で冬が一番好きだからということもあるが、冬から春にかけては一番変化の度合いが大きく、気持ちも心も追いつかないような思いを抱くことがあり、心身ともに負担がかかる時期だと感じる。

 土用の時期と聞いて、自分の感じていた体調の変化や、この時期になんとなく感じていた違和感に名前がついたような気がして、それだけでほっとしたような気持になった。土用の時期だからと言葉にすることで、少し扱いやすくなる気がしたからかもしれない。

 

 

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