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Ψについて

長谷川泰子

 

 小さい頃は平気で触れたが、大人になって「鱗粉が付くのが嫌だ」という人の話を聞き、それ以来私も蝶が苦手になってしまった。犬や猫のようにある程度のコミュニケーションが取れる動物とは違い、蝶は動きの予測ができない。自宅周りは田畑が多いところでもあり、蝶はしばしば目にする。ひらひら飛んでいるのを見ると、こちらに寄ってくるのではないかとびくびくしてしまう。

 先日相談室に新しい引き出しを入れた。そこにつけられたギリシャ文字のΨをモチーフにしたデザインについては「檀渓心理相談室にあるいろんなもの」のところに書いたが、Ψ・psyの意味について興味をもち、インターネットで調べてみた。

 英語では心理学はpsychology フランス語ではpsychologieである。あたまの部分のpsy は、ギリシャ語Ψをローマ人が音訳したpsycheという言葉からきている。

psyche は蝶を意味するらしい。さらには、息・呼吸、霊魂・たましいの意味も持つのだという。蝶の羽ばたきが空気や風の動き、呼吸などを連想させたからではないか、そこからたましいの意味もうまれたのではないかと、これは私の想像である。ちなみに-logyは学問を意味する言葉で、psychologyはたましいの学問ということになる。つまりそれが心理学ということなのだ。

 蝶とたましいのイメージの重なりは世界中で見られるもののようで、日本でも蝶は亡くなった人のたましいを運ぶものと考えられたりしたようだ。仏教的な考え方では、さなぎから脱皮して蝶が飛び立っていく姿が身体からたましいが抜け出し極楽浄土にむかうイメージに重なることもあり、蝶が輪廻転生の象徴ともなっているらしい。輪廻転生から不死のイメージも生まれたようである。面白いのが、この不死のイメージは仏教的なものに限るのではなく、キリスト教においても蝶は復活の象徴とされているという。またネイティブアメリカンの中には、変化や再生、生命力などを象徴とする見方あるらしい。

 臨床心理学的に考えれば、蝶は無意識のシンボルとも考えられるかとも考えた。蝶が持つ変化や再生、不死といったイメージは無意識的ものの力と重なるところがある。予測ができない蝶の動きも無意識的なこころの動きを連想させると言えるのではないか。

 と、ここまで考えてきて、私は臨床心理士だけど蝶が苦手なんていいのか、などと少し気になってしまった。無意識に敬意を払っているからこその苦手意識だと、自分を納得させている。

 こんなことをあれこれ考えて、やはり新しい引き出しにつけられたデザインは相談室にふさわしいものだったとうれしくなった。蝶は苦手だが、このデザインはとても気に入っている。

 

 

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