定年退職の挨拶状 

 「挨拶状」というタイトルで保存されていた文章です。西村洲衛男先生が、椙山女学園大学を退官された時に開かれた会の後に書かれたものと思われます。

 途中に「自分の中にあるものを書き出してみました」とありますが、この文章は今のところ不明です。また「檀渓心理臨床研究所」とありますが、当時、相談室とは別に立ち上げられたもので、様々なセミナー・研究会などを主催したりしました。今はもうこの研究所はありませんが、これからは檀渓心理相談室でセミナーなどを開催していくつもりです。今後の予定については「セミナーのご案内」をご覧ください。

 

 

挨拶状

西村洲衛男

 

2007年5月吉日

             

 

 拝啓 若葉も緑濃くなり夏日になってきました。皆様方ご清栄のこととお悦び申し上げます。

 先般、私の定年退職に際しまして、皆様にお集まって定年退職を祝っていただき過分なお言葉を頂きました。また、温かい心のこもった沢山のお花をいただきまことにありがとうございました。花束に包まれた退職でした。女子大ならではの体験でした。本当にありがとうございました。

 

 この頃やっと花束に包まれた世界から現実に下ってきたと感じます。これまで大学の時間割に支えられた生活であったことが自由の身になってわかります。毎日の生活に自分で時間割を組まねばならない生活です。人はこの習慣的な時間割に支えられて安心していることがわかりました。

 これまでは大学の時間割で生きていたので外に目が向いていました。自由になって改めて自分を見てみますと様々な思いが出てきます。それらに心を配っていますと外側のことはどうでもいいような感じになってきて、テレビや新聞も「まあいいわ」という感じになってきます。外側のことが二の次になった感じです。そして自分と向き合うことが如何に忙しい生活になるかがわかり始めました。自分にとっては良いことかもしれませんが、これから皆様に配慮がなくなることを心配します。こうしてボケていくのかもしれないと思います。

 

 昨年から今年にかけて自分の中にあるものを書き出してみました。誤字脱字はもちろん、拙い文章で読みにくいと思いますが、暇つぶしに読んでいただければ幸いです。

 これらを書き上げたとき、私はどこかで仕事をして、大きな空のトラックを運転してきてみんな(何故か男ばかり)と一休みし、それからまた空のトラックに乗って街に出るという夢を見ました。ですから、あの世へ行く道を引き返し、この大きなトラック一に荷物を載せてどこかに運ぶことになると思います。長い大きなトラックですから方向転換が大変です。また、それに載せる荷物をこれから自分で作らなければなりません。その仕事が皆様のお役に立ったらいいなと思います。

 

 退職の会に皆様にお集まりいただき、皆様と心がつながっていたのだということがわかり、とてもうれしくなりました。自分が生きてきたことが少しはお役に立っていたのではないかと思います。皆様は在学中、面接や卒論作成で忙しいので、私は皆様のためにあまり仕事をしてきませんでした。初任者研修を前の大学ではしていたのですが、それもできませんでした。

 皆様は大学院を修了し、臨床心理士の資格を取り、すでにかなりの経験を詰まれましたので、これからご一緒に心理臨床の学びを始めることができると思います。このために一昨年檀渓心理相談室に付属する檀渓心理臨床研究所を作りました。これから学びの場を作りますのでご自分の経験をもっと深めたい方はご参加下さい。どのような形でやるかは目下検討中です。皆様が参加しやすい形を作っていきたいと思います。

 

 心理臨床は息の長い仕事です。また、幅広いつき合いが必要な仕事です。社会性の広がりによって、心理臨床の経験がより深いものになっていくと思います。広く深い心を作ってください。

 皆様のご健勝とご発展をお祈り申し上げます。 敬具

 

 

 

〈次へ  前へ