ドライブ・マイ・カー

長谷川泰子

 

 車の運転は好きだ。見知らぬ土地を運転してみたくて、旅先ではレンタカーを借りることが多い。東北、特に青森が好きでもう5~6回行っている。いい温泉があるしご飯もおいしい。景色もきれいだ。つい何度でも行きたくなる。しかしいつも青森に行くときは、必ずまず東北の別の場所に行き、そこから北上して青森に行くことにしている。東北道を運転したいのだ。昔、東北のあちこちを何日かかけて旅した時、山形から徐々に北上していくプランを立てた。11月の末で、紅葉の時期だった。東北道は山の近くを道が走っており、北へ向かって運転していると木の種類も紅葉の進み具合も変わっていくのが分かる。車も多くはないしとても走りやすい道で、好きな音楽を聞きながらの運転はとても楽しかった。それ以来、青森への旅行は必ず秋、東北道を北上するルートでというのがきまりになっている。

 映画「ドライブ・マイ・カー」を見た。昨年の夏に初公開された時は、見たいと思いながら結局時間がなくて見られないままだった。この映画が様々な賞をとったおかげで今また公開となっており、映画館で見ることができた。上映時間は約3時間、コロナで様々な制限が生じてきてからは一度も映画館に行っておらず、久々の映画でいきなりそんな長時間大丈夫だろうかと心配していたが、3時間もあっという間に感じられるほど映画の世界に引き込まれた。

 映画を見て、ドライブも含めて乗り物にのって移動していくことには一種、セラピー的な効果があるのではないかと思った。常にどこかに移動していく、前に進んでいって見える景色は変わっていく。必ず変化があり、新しい何かが見えてくる。それだけでもこころに何か変化をもたらすのではないか。

 以前、たまたま夜行列車に乗って東京から山陰に向かう動画を見たことがある。列車の設備の紹介などの詳しい説明もあったが、何よりも次々と変わる車窓の風景に惹かれて、鉄道には全く興味がないのにその動画をすべて最後まで見てしまった。冬に撮られた動画で山陰に入ると雪景色も見えて、あの車窓の風景を見てみたい、そのためだけに私も一度冬にあの列車に乗って東京から山陰に向かって旅してみたいと思ったほどである。移動し続け見える景色が常に変化していくこと、それだけでこころは動くのだ。

 映画の内容には触れないが、印象的だったのは本当のことを知ることの大切さについて語られていたことだ。檀渓心理相談室の玄関には「真実不虚」の色紙が飾ってある。前室長の西村洲衞男先生が大事にしていた言葉だ。もともとは仏教の言葉で読み方や解釈はいろいろとあるようだが、西村先生はいつも「真実は虚しからず」と読んでいた。本当のことが分かればいい、それを認めればいい、そこに大きな安心がある、そう常々言っておられたが、この映画はそういった西村先生の考えに通じるところがあるように思う。ある意味、「真実不虚」を映画にしたものだとも言えるだろう。

 

 自分の都合に合う時間で見られる映画館がちょっと遠いところで、1時間以上かけて映画を見に行った。この映画を見ると、すごく安全運転したくなる。運転にはいつもは欠かせない音楽もオフにして、静かに、映画の余韻に浸りながらいつも以上に安全運転で自宅に帰った。

 

 

 〈次へ    前へ