箱庭を作るー教育分析

9月下旬ソウルのaicorea(社団法人児童発達教育研究院)で開かれる韓国発達支援学会で私に特別の時間が与えられ、大変光栄に感じている。その話のために私は自分で箱庭を作った。
 今年5月檀渓心理相談室にaicoreaの朴先生(Park Ranggyu)が若い人たちと共に来訪され、それぞれ自分で作った箱庭のシリーズをみんなの前で発表され、私はそれにコメントした。最後に朴先生がご自身の箱庭のシリーズを一緒に来日された若い人の前で発表された。それは見事に先生内的な世界を現したもので、私は感動した。
 箱庭療法を学ぶ人は、自ら箱庭を10回作って自分の所属するグループで発表するとういう研修方式は朴先生の指導によってソウルで始まったものである。
 随分昔の話だが、事例研究会というので行ってみたら、そこにいるメンバーが自分で作った10個の箱庭を提示し、私はそれにコメントをしなければならなかった。こういうことは日本で八王子少年鑑別所に集まる法務技官を中心としたグループで行われていた。そこのメンバーはほぼ毎月集まって箱庭を作り、互いに批評し合っていて、仕事の面だけでなく、現実の生活も、そして内的世界も箱庭を見ることによって深く知っている。しかし、朴先生が開いたその事例研究会は朴先生が招集うしたメンバーで、互いに深く知り合った関係ではなかったと思う。だから、私は一大決心をしてメンバーの方々が提示される箱庭に向かった覚えがある。その時は李揆美教授(Ajou Univ.)も通訳の嚴在姫さんも箱庭を披露された。
 思い返して見ると朴先生はそのときご自身の箱庭を出されなかったように記憶している。先生はとにかく私がソウルに来るまでにみんなに10回作らせるという重い課題を抱え、自分で箱庭を作る心のゆとりはなかったと思う。
 自分より若い人々に10回の箱庭制作の課題を果たさせたから、自分もいずれは10回の箱庭シリーズを提示しなければならないという想いがずっとあって、ついに今年5月若い人々と共に来日され、韓国発達支援学会員の義務を先生は果たされたのだと思った。10回の箱庭制作とその公開が韓国発達支援学会では定着している現在、自ら箱庭制作の課題を果たされたことに敬服した。
 そこで、遅ればせながら、私も自分の箱庭を作って今年の韓国発達支援学会で発表し、箱庭の内容を自分で説明し、参加者のコメントをもらうことにした。
 この夏箱庭を作り始めた。箱庭のことについては色々とわかっているので、中々作りにくい。これをここに置くとこういう意味になると自分でわかる。わかって作るのはすでに遊びではない。箱庭は遊び半分で、思いつきで作る必要がある。遊びの中に自分が出てくる。たましいの姿がフラフラとあくがれ出てくるのだ。
 その遊びが自分は下手だとうことを、箱庭を作ってみてつくづく感じた。自分は理知的で、非合理的なことを好まない性格であることを思い知った。何でも説明してしまう。
 デザイナーは独創的なイメージの作品を作る。その上作品についてとことん議論できる多面的な意見をもっている。そういう説明可能な知性を持ちながらイメージを出せるところがデザイナーの力である。
 箱庭を作るに当たって心に気になっていることを思い出し、それを気にしていると次の課題が見えてくる。村上春樹は川上未映子との対談『みみずくは黄昏に飛び立つ』(新潮社2017)で物語の創作法について述べている。ある一つの言葉を思いつき、更に別の言葉を思いつく。その二つを心に留めて思いをめぐらしていると、物語が出てきて二つがつながってくる。物語はそういう具合にして出来上がるのだという。
 私の箱庭制作もそんな具合にして作ると出来た。先に作った箱庭の気になるところを考えていると次の箱庭ができてくる。そうやって私の箱庭のシリーズが出来上がって行く。それは面白い。そういう気になっているところは何年にも亙って心の中に連続していることが以前の箱庭を見ると歴然と出ている。それにはびっくりした。
 教育分析は普通一人の分析家に夢を通じて自分をさらけ出すのだが、朴先生の方式は自分を良く知るグループの前で発表するところが個人分析より素晴らしい。個人分析は親友との話のようなものだが、グループになると社会化する。人が多くなるほど社会化の可能性が出て来る。村上春樹のような大勢の読者を前にした作家は普遍的な知恵を物語の中に表現することが出来ると思う。
 この考え方は、個人的な秘密の開放をベースにしている。その秘密のグループでの開放が社会化につながって行くのである。
 秘密を持つ人は孤独になる。秘密を解放すると孤独から解き放たれ、社会的に生きられる。青年心理学は何でも打ち明けられる親友が一人あればいいという。それも大切なことだが、社会的に自分を張って開業するカウンセラーは親友ほどではなくても、ある程度の自分のことをさらけ出す覚悟が必要だ。私たちカウンセラーはそのことを自ら経験している必要があると思う。
 10回と言わず、毎年数回作って見てはどうだろうか。東京八王子の箱庭の会は自ら箱庭遊びを楽しみながら、仕事にも活かしている素晴らしいグループだ。箱庭で教育分析が深まっているのだ。しかし、これは女子会に近い。資格化とはつながらない。朴方式は資格化に向いていて、教育分析の代わりになっている。新しい教育分析の在り方である。