私の心理臨床の方法論

(この文章は心理臨床家のためのものです)

 

 私設相談室で心理臨床に携わっている私の方法論を明らかにしておきたい。

 私のクライアントは数少ない。うつ病のクライアントと言ってもここ2年で片手で数えられるくらいである。そうすると1例か2例の経験からものを言うことになる。

1日に何十人ものうつ病の患者を見ている臨床的精神科医は1,2例からものを言うことはたいへん危険であると批判する。しかし、私設相談室で働く私たちは数少ない事例しか見られず、その経験から見解を述べていくことになる。

 今年の心理臨床学会の大会で数十年の臨床経験からうつ病について述べるという発表があった。私は別の講演を聞いたのでその発表について聞く機会がなかったが、うつ病がはやる今でも心理臨床領域ではこのような研究発表は類稀である。

 心理臨床の研究発表は大体事例研究である。一つの事例から何か言っていこうということになる。そこで大体すでに認められているフロイトやユングの心理学的な理論にあてはめ、また、最近の論文に照らし合わせ、そのうえで事例についての自分なりの見解を出して締めくくられる。

 そのような心理臨床学研究のスタイルを採るとずいぶん文献を読まなくてはならないし、さらに長い経過の事例報告を短い枠の中に研究論文の文章で書いた、著者が理解した意味での述語で書かれた文章を読まなくてはならない。そういう論文は読んでいるうちに嫌気がさしてくる。事例報告の経過報告は参考になるが、事例に関する考察の部分はあまり読みたくない。こじつけや借り物による仕分けの考察は心に響くことが少ないから面白くない。面白いのは事例の経過である。

 心理臨床家の研究方法は事例の経過、そして自分の経験から考えることである。数少ない1例の考察からだが、そこから得ていくものは次の事例に役立つように思われる。多くの患者を見ている精神科医からみると、1例から普遍的なものを見だそういうのは危険であると言うが、われわれにはそれ以外の方法がない。

 私たちは一番極端な例から普遍的なものを導き出そうという方法論である。それだけに心理学のもっとも普遍的な了解可能な理論に基づいて1事例から誰もが理解可能なものを取り出していくように努めたいと思っている。