結婚の諸段階

 男女の結びつき、結婚は幼児期から始まります。幼稚園レベルの子ども、特に女の子は結婚式の遊びが好きです。誰々君が好きで結婚したいと言い、結婚式の遊びをします。花嫁に扮し、並んで写真を撮ったりすると喜びます。この段階は、女の子が積極的で男性が遊びに引っ張り込まれています。女の子はこの結婚式の遊びによって自分が女の子になって行くのを確認するのではないかと思われます。

 小学校に上がって、男の子がサッカーや野球に夢中になっているとき、女の子はあの子が好きだという気持ちを持ち、ある子は意中の子に告白したりします。男の子で女の子に対して好意を告白するのは小学校では珍しいのではないかと思います。

 中学1年まではまだ小学校の気分が残っていますが、中学1年の後半か2年生では男の子も思春期に入り、異性を意識するようになります。中学から高校にかけて、思春期前半のこの段階では女の子の積極的な態度は影を潜めます。好きな男の子への意識は強いものの自分からの表明は少なくなるのではないでしょうか。しかし、男女とも性に目覚め、性欲に動かされるようになるので、中学レベルでは性的な関係ができた後で付き合うかどうかを決めるような事態も出現することがあります。また、モテる男の子は何人もの女の子と関係したりすることもあります。

 中学2年生以降青年期前期に入って20代、あるいは、30代前半にでは、性欲に動かされた男女の結びつきが重要です。これまで見てきた人の中で身体レベルの関係を強く求める人はとにかく結婚に至るように思います。性的な関係を敬遠している人はこの時期に結婚することが難しいのではないでしょうか。

 性欲が強いのは10代半ばから20代ですから、この期間に結婚するのが順当かもしれません。身体レベルの結婚、それが第一段階の結婚です。

 30代後半から40代前半にかけて、お互い大人としての男と女の付き合いを改めて考え始めます。子供ができ、子育てをして、子どもから解放され、父親母親の役割が少なくなって再び男と女になるとき、大人となった男と女の結びつきが考えられるようになります。

 この段階で初めて精神的な、適当な距離を置いた結びつきも模索がなされるのではないでしょうか。この段階で、強く深い結びつきを求めると、愛し合っているのか、性格が合っていのるかなど深刻に考えるようになり、離婚の危機が出現します。中年のこの精神的な結婚は青年期の激しい愛の結婚に比べると、深く慎重な熟慮の下に静かに進行する過程ではないでしょうか。この時期は、激しい愛は影に退き、周囲に子どもの問題、例えば、非行、不登校、反抗期の精神的な荒れ、父母の両親との関係や親戚付き合いや親の介護など様々な問題が生じて、夫婦で話し合いをしっかりしなければならないことが生じてくるのです。これらの問題は問題の解決に際して、親の反省、夫婦の話し合いがとても必要です。それがしっかりなされればすべて解決すると言っても過言ではありません。それらの問題は夫婦の精神的な関係をしっかりするために起こっているとさえ考えることができます。精神的な結婚とは自分たちだけでなく、自分たちを取り巻く環境とも調和を図っていくことではないかと思います。

この中年の精神的な結婚をしっかりしておくと50代、60代を無難に乗り越えることができるかもしれません。

 60代になると勤め人は定年退職し、年老いた男女が、大抵はセックスレスで、いつも家に一緒にいるようになります。昼間夫が仕事に行っていて離れ離れにいたから安定を保っていたのに、退職してからいつも夫が一緒ではたまらないという女性が少なくありません。老いてからの男女の関係がまた難しいように思います。二人が仲睦まじく健康に暮らし、助け合っていくとき静かな良い暮らしがあると思うのですが、こういうゆとりのある空白の中に忍び込んでくるものは痴呆や健康問題、特に回復の難しい難病などではないでしょうか。それらは、老いた男女の仲をもう一段考えさせるものとなります。

 したがって、私は、老年の儀式、老年の結婚式が必要だと思います。老いの向こうにある死に向かって二人でどのように歩んでいくかという宗教も視野に入れた結びつきが大切ではないでしょうか。精神的な生き生きとした男女の結びつきがあれば、病気や痴呆はかなり防ぐことができるのではないかと思いますが、みなさんは如何お考えですか。

 ずっと昔、奥さんが心臓疾患でご主人の介助なしでは生活が困難になったご夫婦がありました。確かにやさしいご主人でかいがいしくお世話なさっていると聞きましたが、何か病気を介して成立する結婚関係ということ考えたことがありました。私たちには避けられない問題や障害や病気が生じますが、病気や障害があっても生き生きとした結婚関係というものがあるような気がします。

 今年は成人式に合わせて老年式をした人々が多くあったとテレビは報じていました。それはただ単に若者に負けない元気を出すだけでなく、老後の男女の関係を見直す機会であってほしいと思います。

 老人ホームの90歳の女性はこの年になっても、若いと言っても、60代の男性が気を配ってくれるのはうれしいと言いました。男女の関係はいくつになっても広い人間関係の基礎となるのではないでしょうか。私はいくつになってもカップルでオペラや食事に行ける男でありたいと思います。

 

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