非定型うつ病について

 非定形うつ病は投薬でなかなか改善しないので私たち臨床心理士のところにまわされてくることがある。私たちのところでもなかなか改善を見ない。非定形うつ病というのは難治性うつ病ということである。

 なぜ治らないのかその理由を少ない事例から考えてみた。

 第一は、育ちが良くあまり反抗もせず素直に成長している。幼稚園から小学校の低学年の時期の、フロイトの言う男根期、エリクソンの言うイニシアティブの時期、人 としての主体性、自立性が芽生える時期に自分が育っていない。

 イニシアティブというのは自発的主体的に自ら進んで何かしようとする姿勢である。それが良い子になってわがままな自主性が育っていない。なんとなく恵まれた中で過ごし、自ら興味を持って何か面白いものを見つけ、観察し、それを自分のものにしようとした経験に乏しい。与えられたおもちゃで遊び、仲間について遊んで満足している。なんとなく野山で遊んでいるから面白い経験はあるようだが、子供時代の記憶が不鮮明である。子ども時代のことがほとんど思いだせないという人もある。

 第二の特徴は偉大な、時には頑固な父親像である。父親は「長」の地位にあるような人である。お父さんは生活に必要なお給料をしっかり稼ぐような人だから、しっかりしており、時には厳格で、会社で仕事に専念しているから家では何もしない。話もしない。お母さんはお父さんにべったりで何事もおとうさん第一に過ごしている人である。

 お父さんは長の地位に就く人だから会社で苦労していることもあるが、うつ病になっても、自分で克服しようとし、また、それができる人である。

 今の時代はすぐにうつ病と言うけれど、昔はそんなのは気の病だから努力が足りないとみられ、努力すれば克服できると考えた。そして実際努力でうつ病を克服した人もいる。そんなお父さんがいるとうつ病なんか自分で治せと言われてしまう。子どもは自分が育っていないから、病を克服するほどの挑戦する力はなく、うつは遷延してしまう。

 第3は愛着の不足である。なんとなく良い子にそだっているから、周囲に甘えてエネルギーを引き出すということができない。不満を言ったりわがままを通したりということができない。与えられすぎて要求することを知らない。関係をもつと相手とのかかわりから元気が出てくるのだが、かかわりの中での自らの発言が少ない。自発的発語が不足している。先に述べたイニシアティブの不足である。精神分析的に見れば、たぶん乳房をくわえている頃からかかわりが少ないということになる。

 このようなことから、非定形うつ病の心理療法は難しい。多くは夢も出てこない。遊びのできないところで自分を作る作業が必要である。それでクライアントのペースに合わせた面接間隔にしている。ゆっくり治し、人生を充実させたいと思う。

 

 

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