猫たちに学ぶ

 我が家に猫が2匹やってきたことをずっと前に書きました。その猫たちがその後どうなったのか興味をお持ちの方もあると思いますので報告します。

 やってきた猫2匹は元々野良でした。体の大きさから考えて昨年の春生まれと秋生まれのようです。春生まれは8番目のオスなので八郎、秋生まれは敏捷でちりちりと音が聞こえそうで鈴と名づけました。

 2匹を暮れの27日から私の物置のようになった書斎に入れていたら出口を求めて方々を引っ掻き回し、書斎に続く居間も毎朝悲惨な状態になっていて、部屋の隅っこに隠れてしばらく見つけられないときもありました。でも夜中に餌は食べていたようです。鈴は肉を与えると食べましたが、八郎は決して食べようとしませんでした。頑として疑いの目を持っていたようです。

 元々いた猫たちは2匹が来てからいつもいる居間を出て距離を取っていましたが正月になって次第に戻ってきて、八郎も猫タワーの上の箱の中に入って寝ましたので少し安心しました。猫たちの出入りが多くなるとどうしても居間の引き戸に開けてある猫ドアの塞ぎが甘くなり、ついに4日に八郎が、5日に鈴が出奔しました。外に餌を早速置きましたが、姿が見えません。名古屋の西の方の自分たちの住処に帰ったのではないかと心配しました。数日して鈴が家の中に入って来て、その後八郎も庭で確認しましたので、安心してこの子たちをお世話くださった方にも報告することができました。

 野生を持ったこの子たちは餌を食べに来ますがなかなか慣れてはくれません。鈴は最近猫たちが寝ているところに丸くなっていることがありますが目を見合うとダメです。はじめは眼をつぶって敵意の無いことを示しますが、何回も見たり近づいたりすると急いで出て行きます。八郎は私たちが寝静まったとき家の中まで入ってきていますが、夜中に起きて寝室から出ますと一散に走り出て行って姿も見えないことがあります。八郎が昼間も家の中に入っていることを確認したのは最近のことです。気長に仲良くなってくれることを願っています。

 気づいたことは次のようなことです。

<猫は寒いのが好き>

 猫たちが出奔したとき、これからもっと寒くなるのに可哀想だと思いましたが、猫たちは元々寒いのが好きなのではないかと気がつきました。私たちは雪はこんこんという歌の文句につられて猫は炬燵で丸くなると考え、猫は寒いのが嫌いだと考えています。でもそれは猫好きの人の寒がりの故ではないかと思いました。先輩のユリは帰ってきたと思うと次の夜は帰ってきません。別宅があるのかとも思ったのですが、帰ってきてがつがつと餌を食べる様子から別宅があるとも思えませんでした。これも正月わかったのですが、ユリは何処かから出てきて、家から100メートルほど北の林のなかの草叢に入っていきました。そこがねぐらのようです。ユリは湖畔にある喫茶店で生まれ、そこで半年暮らしました。そのとき湖畔の草叢でよく過ごしていたということなので、今もその習性が残っているのでしょう。寒い雨の夜も外で過ごしています。八郎も鈴も外で暮らすのは平気なのです。シベリヤの虎が思い出されます。それにしても、雪やこんこんという歌の文句で私たちの心は猫は寒いのが嫌いだとなってしまうのですから、歌の文句の力が勝っていることがわかります。現実の認知よりも詩のイメージが優位なのです。従って、認知療法よりもイメージ療法の方がはるかに優位なはずです。

<慣れるのに時間がかかる>

 慣れるのに時間がかかります。餌を与えたりやさしく近づこうとしたりすることは逆効果です。むしろ餌をやって知らない振りをして関心が無いことを示すことが一番仲良くなる方法のようです。

 心理療法の面接で正面切って向き合わず、横を向いたり目をつぶったりして緊張を和らげます。心の大事なことを話す、無防備な場面ではかえって見ないことが相手を守ることになります。河合隼雄先生がほとんど眠ったようにして相対していられたことが思い出されます。安心して共にいることができる関係こそが大切なのです。

 昔の落ち着いた人間関係の雰囲気が田舎に行くと残っています。それを感じ取った人は田舎は好いと言います。それは田舎が居心地の良い適度な人間関係を保っているからではないでしょうか。先日名寄に行きました。名寄は昔木材の集散地として栄えていた大きな市で、雪の降った朝除雪車が何台も雪煙を上げて走り回る様は札幌でも見られない興味ある風景でした。多くの人が朝から雪かきをして人々が通りやすくしている様子は自分の家だけではない、通る人のために配慮した作業です。そういうところに多分昔の人間関係の良い雰囲気を保っている世界ではないかと思いました。人々は穏やかで本当に居心地の良い世界です。

 猫たちと仲良く暮らすにはほどよい距離が必要なのだと思います。そしてお互い決して攻撃し合わないという抑制の姿勢が大切だと感じています。欧米の、特にアメリカの攻撃的な心性、車中心の社会性、あるいは法律重視の社会性が私たち日本人の和の精神を蝕んでいるように思います。

 

 これから猫たちのように適度な距離を保ってと思うこの頃です。

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