若いひとのうつを治すには

 昨年から今年にかけて、うつに悩む人が何人かやってきた。もう半年以上面接している人についに「あなたのうつは治らないから、歩みだすのをうつが治るまで待っていてはだめだ」と言った。それは私の実感だから相手に衝撃を与えた。彼は初めて前進したように思いますと言って帰っていった。

 精神科医のクリニックに行くと、医師はうつを治そうとする。うつはうつ病という病気で、病気を治すのが医師の役目だからそうするのである。治療法は抗うつ剤の投与と休息である。休息しているうちに自分らしさを回復することが大切であるという考え方である。

 この治療法は、中年まで立派に生きた生真面目で几帳面な、周囲に配慮し責任感のある人にはとても有効な治療法である。ところがこの方法が若年者のうつ状態にも適用されている。果たしてこの方法が若年者のうつ状態に適法であるか疑問である。

 うつ状態になるような若者は、根は真面目であるが、その真面目さは中年のうつ病者ほど徹底したものではない。考えの面では生真面目であるが、態度や行動面で未だ自分を捨てて他に尽くすほどではない。巳を捨てるほどの巳がないといって良いのではなかろうか。

 若い人のうつ状態は、自分の芽が出かかって伸び悩んでいるところと考えるのが適当ではないかと思う。自分らしい芽を出したいものの、自分が未だ何者かわからない。その状態では休息も抗うつ剤という活力賦活剤も役に立たないのではないか。

 むしろ、無心になって目の前にあることに邁進していく以外に手がないのではなかろうか。自分が何者なのか何ができるのか、しばらくやってみなければわからない。

 私はうつが治らないという若者に向かって、あなたのうつは治らない。うつは自分が自分らしく歩み始めるために生じていることだから治そうと思ってはいけない。うつうつとして、成功するかどうかわからない独立して企業を営む道を歩み始めなさいと言った。そうするとうつなどと、のんきなことは言っていられないほど忙しくなると。

 そういう助言をした後にやってきた別の人は、自分にはとても無理だと思っていたのに、やってみるとどんどん力と勇気が湧いてきて、意外にうまくいったという夢を報告した(まるで私に代わって考えてくれていたようである)。やってみると意外に力が湧いてきて、うまく行くというプロセスがうつの背後に潜んでいるのではないかと思う。うつを治してはいけない。治すよりも、目の前にあることを何でもいいから実行して、その底に潜んでいるエネルギーを引き出すべきだと思う。

 

 共感し受容していればクライエントは自ら問題を解決していくというカウンセリングではなく、カウンセラーとしての私と彼との本当の対話の心理面接でこういう考えが出てきた。クライエントの方に参考になれば幸いである。