軽い自閉症、アスペルガー、ADHDと呼ばれる子どもたちの遊戯療法

 軽い自閉症、アスペルガー、ADHDなどの診断を受け、そうしたらよいか困っていらっしゃる方があると思います。

 これらの診断を受けた場合、現在、心療科や小児科などで薬物療法と平衡して認知・行動療法を受けられることが多いと思います。

 以前は、これらの子どもに対して遊戯療法が行なわれていました。遊戯療法は子どもの退行を促進します。そして退行した段階からの脱却が難しく、特に、退行した子どもの甘えを受け止める母親や教師の負担が大きいために遊戯療法は好ましくないと評価されているように思います。しかし、今、改めて、自閉的な子どもの遊戯療法を私はすすめたいと思います。

 遊戯療法は、プレイ・ルームで子ども主導で自由に遊ばせ、治療者はその遊びを見守り、終始相手をすることによって、子どもの主体的な成長を援助する方法です。

 終始、丁寧に、子どもの自主的な遊びの相手をすると、子どもは治療者に懐いてきます。それからもっと元気を出したい子どもたちは退行し、幼児的になり、治療者ばかりでなく、母親や教師に愛着を求めるようになります。いわゆるまといつきが起こります。このまといつきに付き合っていると、子どもたちは次第にこの愛着行動によって安心感を覚え、要求することを覚え、人間関係、広くは、対象関係を作る能力を発展させるのです。

 ADHD、つまり、落ち着きのない子どもは物事に集中することができません。物事と自分の関係をしっかり保つことができないのです。落着きが無いと見えるのです。子ども自身が大人からしっかりと相手をされたことがないので、物事との関係に集中できないのです。もし、子どもが大人からしっかりと相手をされると、物事に取り組むときもしっかりとするのです。大人との愛着関係は子ども勉強との関係にも影響するのです。子どもとの気持のやり取りをしっかりすることによってこそ、子どもの勉強への集中力を高めることができるのです。

 子どもに愛着要求が高まると誰にでもべたべたしてきます。特に、母親に対してはそうです。自閉的な子どものお母さんの中には、子どもにべたべたされるのが苦手という方があります。その場合は、子どもの愛着要求が増大すると大変苦労されることになります。お母さん自身が幼い頃にべたべたの体験が余り無いので苦労が大きいわけです。だから、お母さんにすべてを任せるのではなく、愛着を喜んで受け入れることのできる治療者や教師がその子の親になったつもりで覚悟して付き合うと、かなり子どもに安心感を与えることができます。

 子どもが愛着行動を通して得たいものは安心感と元気です。子どもが愛着欲求を強めるのは安心感を得たいためです。愛着で安心感がえられないと、子どもは自分で自分を安心させようとして、強迫的な、常同行為をするのです。

 自閉的な子どもの常同行為を無くそうとするならば、それに代る安心感を与えなければなりません。もし、安心感が与えられず、一つの常同行為を止めなければならないなら、子どもはそれに代る別の常同行為を始めるに違いありません。だから、私は退行を促進し、まといつきを受け入れて、愛着欲求を満足させる方が、安心感が高まり、活動的になると思います。それが退行を促進する理由です。

 退行を促進し、愛着欲求を満足させる場合、お母さんにその役目の大部分を求めるのは酷だと思います。何故なら、先ほど述べたようにお母さん自身があまりべたべたした関係を親子の間で経験しておられないのでできにくいからです。従って、それを容易に受け入れることのできる治療者が、自分が母親になったつもりで頑張るのです。この主体的な治療者や教師の意気込みが子どもを安心させることにつながるのではないかと思います。

 これまでの精神分析的な接近方では、このやり方は子どもに過剰な愛情を注ぎ、関係を難しくするので、心理臨床のやり方としては不適切であると考えられがちでした。

 しかし、それは大人の心理臨床では正しいかもしれませんが、より多くの愛情を必要とする子どもの心理臨床では通用しません。愛情を必要としている子どもにはそれを与える必要があります。

 子どもに相対するとき、単なる一時的な面接者としてではなく、一期一会の全存在をかけてかかわるとき、子どもたちは何かを感じるのではないでしょうか。たとえ一時的でも、しっかりと見守られた経験をもつと、子どもでも物事を、そしてかかわる人をしっかりと見つめるようになるのではないかと思います。そこに対人関係が開かれ、自閉の壁に窓が開き、落着きが出てくると思います。

 こういう訳で、軽い自閉症、アスペルガーと呼ばれる子どもたち、ADHDという落ち着きのない子どもたちは、愛着欲求を満足させることによってかなり改善すると思います。

 一方、臨床心理士の中にも、愛着関係を余り経験していない人もあります。臨床心理士は大学院を修了できるほどの能力を持ち、早くから親に頼らず、知的な能力で、自立した生活をして行こうという傾向が強いのではないでしょうか。情緒的な関係の中で、愛着、つまり人に頼って安心感を持つよりも、人に頼らず、自分で何とかしていこうというのです。そういう人は愛着の経験は比較的に少ないと推定されます。そういう人の場合、人格の前面に知的で自立的な傾向が出ていて、愛着し、情緒的接触を豊かにもとうという傾向は背後に退いています。そういう人は自閉的な子どもの愛着欲求を開発することが難しいのです。そういう訳で、臨床心理士の資質も大きな要因となります。

 子ども時代に十分な愛着欲求を経験した人、あるいは、経験していないことに気づいて、その欲求不満の葛藤を内的に悩みぬいた人の方が、子どもの遊戯療法において、人格の力を発揮できるのではないかと思っています。中には子どもに向かい合ってはじめて自分の力不足に気づく人もあるでしょう。そのとき、子どもも大人も一緒に悩みながら、心の隙間を埋めていく仕事、それが子どもの心理臨床ではないかと思います。

 檀渓心理相談室では、軽い自閉症、アスペルガー、ADHD,広汎性発達障害などと診断された子どもさんの遊戯療法を積極的に受け入れています。ご希望の方はお申し込みください。

 

 

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