歯に関する夢、特に歯が抜ける夢を聞くことは多い。
歯に関する表現はいろいろあって、例えば「かみつく」「食らいつく」などの表現は、実際に何かを歯で噛むことを言うこともあるが、それよりも相手にかみつきそうな勢いで激しく迫るような態度や、何かにしっかりと取り付いて何が何でも離さない状態を表わしている場合が多い。かみつくほどではないが、他にも「歯をくいしばる」「歯が立たない」などの表現もあり、こういったものも実際の身体的な動作や感覚を言うだけでなく、その身体感覚を基にした比喩表現としても使われる。
歯は食べ物を噛み砕いて栄養を取り入れやすくするが、歯が抜ける夢を考える時、こういった歯に関するいろいろな表現も理解の助けになる。歯が抜けては噛めない。そうすると歯が抜ける夢は、例えば、今、噛む力がなくなっているのではないかとも考えることができる。噛み砕いて飲み込むことができなくなっている、すなわち理解や納得できないものがあるのではないか。「歯が立たない」ような状況を前に、よく分からないまま物事を丸のみするしかなくなっているのではないだろうか。あるいは「食らいつく」パワーがなく、積極的に物事に関われないでいるのではないか。かみついてもいいようなことにかみつけずにいて、ただ相手の言うなりになっているのではないか、などとも考えられるかもしれない。
かみつく、というと、相手にケンカを吹っかけるような攻撃的な態度を連想するかもしれない。しかしかみつくからこそ食らいついていけるのだし、かみついて咀嚼(そしゃく)するからこそ飲み込みやすく、消化しやすくもなる。そうやって食べ物はもちろん、いろいろな知識や新たな体験など、外の世界にある何かを自分のものにして成長していく。噛むこと、自らかみつき、食らいついていくことは、消化しやすいものをただ流し込まれるだけの赤ん坊のような存在から脱するために必要な行動だと言える。
しかしもちろん、いつまでもかみつくようなやり方しかできないのも困る。かみつくような態度は、一方的な関わりであって、相手に傷を負わせることもあるし、かみつくだけに終わらず相手を丸のみしてしまう可能性もある。そうなると相手の立場や居場所を奪うことにもなってしまう。
子どものカウンセリングはプレイセラピーとなることが多い。play、すなわち遊びを通して、子どもが本来持っている力を引き出すことを目指す。こういうセラピーをはじめると、相談室に来始めた頃はパワーがなく自己主張ができなかった子どもが、だんだん元気を取り戻し始め、いきいきとしてくる。
ただ、はじめは子どもも自分の力をうまくコントロールすることが難しい。今まで抑えてきた、眠っていたパワーを最初からうまく使いこなすことなどできない。最初は力が入りすぎてしまったり、自らのパワーに子ども自身が振り回されたりもして、攻撃的とも思えるような態度になってしまったり、わがままで自分勝手とみられるような行動をしてしまったりすることがある。
しかし、そこを経験しないと子どもも自分の力をどうコントロールしていいか分からない。いろいろ試して失敗もして、少しずつ自分の力をコントロールすることを覚えていくのだ。ただ抑えるだけでもなく、パワー全開にするだけでもなく、人間関係の中で相手のことも考えながら、ほどよく自分を出すことができるようになっていく。
こういった変化は子どものプレイセラピーにだけ見られるものでもない。大人でも十分起り得ることだ。何か問題が起こって、気分も落ち込み、元気がなくなる。やる気も起きず、積極的に行動できない。そこから回復してくる時、やはりうまく自分をコントロールすることが難しくなることがある。力が入りすぎてしまって、やや攻撃的な態度に傾いてしまうようなことがある。
もちろん、いつまでも攻撃的な態度にとどまっているのも困りものだが、回復していく時に出てくる、一見、攻撃的とも思えるような力、かみつくような勢いが、自分らしく力強く歩んでいくための原点となることがある。
歯は乳歯から大人の歯に生え変わる。歯が抜ける夢も、噛むための力を新しくする時が来たのだと考えることもできるだろう。
