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問題を明確にする

 前室長の西村洲衞男先生から教えてもらって、易(えき)のやり方は知っている。

 易とは中国に古代からある占いで、50本の筮竹(ぜいちく)を使って卦を出して答えを得るものだ。やり方は単純、決して難しいものではない。易に関する本を見ればすぐに分かる。筮竹も専用のものを求める必要はない。西村先生はホームセンターや100均などで売っているバーベキュー用の竹の串が使えると言っていた。とがった先の部分を切り落として軽くやすりをかければ、使いやすいちょうどいいサイズのものになる。一緒に易を教わった人は皆、今でもこのバーベキュー串を使っているだろう。

 出された卦については易経などの本を見れば解説がある。書かれている解説をどのように解釈するかについては自分なりに考えないといけないが、易にはそれなりの理論がきちんとあり、解説も抽象的な内容ではなく、難しいものではない。分かりやすく飲み込みやすい言葉で書かれた本もあり、易経の他にそういった本も併用すれば自分なりの回答を得ることは十分できるだろう。

 このように易自体はそれほど複雑なものでも難しいものでもないのだが、だからと言って頻繁にこれを使って卦をたててみようという気にはならない。そうそう簡単に占いに頼るのもどうかと思うというのもあるが、理由はそれだけではない。確かに易自体は難しいものではないが、易をたてる前までが大変なのだ。

 適切な回答を得るには何を知りたいのか、何を占いたいのか、明確にする必要がある。漠然とした問いに対しては、漠然とした回答しか得られない。出された卦に対する解説を読んでも、それをどう解釈してよいか分からず、結局何をどう考えてよいか分からないままで終わってしまう。そして易は同じことを2度占うのを強く禁じている。すっきりした回答が得られなかったから、もう一度やってみるというのはなしなのだ。

 何を知りたいのか、何に困っているのかを明確にするためには、自分なりに今の状況をじっくり考えることが必要になる。カウンセリングに来た人の話を聞いて、まずは「こういうことに困っているんですね」「こういう問題があるように思います」と、今の状況、現在の問題の整理をして、これからどういうことを考えていかないといけないのかを示す、ということカウンセラーはしばしばするが、問題の渦中にいると、自分がどういうことに困っているのか、何が問題なのかを理解することはかなり難しいものなのだ。

 易をたてるためには、問題について深く考え、何を占いたいのかはっきりさせなくてはならない。自分が本当は何に困っているのか、自分の気持ちに正直になることも必要になる。易をたてる前にまずはじっくり考えなくてはならない。

きちんと考えてから易をたてれば、得られた卦についてすっと理解できるところがあるはずだ。まずは問題を明確にすることが重要なのはカウンセリングにも共通するところがあると思う。

 

 

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