忙しかったり、疲れがたまっていたり、余裕がない状態になると、おかしな間違いをしでかすことが多くなる。ブラウスのボタンを掛け間違えていたり、Tシャツを前後ろ反対に着ていたり、髪をとかすのを忘れてぼさぼさのまま外出してしまったりなど、こういうことが出てくると、ちょっといっぱいいっぱいになっているなと自分でも気がついて、なるべく無理をせず、睡眠をちゃんととるようにこころがけるようになる。
カウンセリングで話を聞いていると、しんどくなってくると記憶力が低下すると言う人がいる。物忘れがひどくなって「認知症ではないか」と、まだそんな年齢ではないのに、不安になるようだ。
こういう状態をどう考えるか。医学的に考えれば、例えば若年性のアルツハイマーを本当に疑うような場合もあるだろうし、そうでなければ、疲労によって脳内の伝達物質がきちんと機能しなくなっている、などという説明もありうるのかもしれない。私は医師ではないので、医学的なことはよく分からない。医学的なことを抜きにして臨床心理士として仕事をしている立場から考えると、余裕がない状態やしんどさが増している時というのは、エネルギーが低下している時で、その少ないエネルギーを生きることや生活することに必要なもっと基本的なことに使えるよう、体やこころが自動的にコントロールしているのではないかと想像したりする。
こういう考えは楽観的すぎると言われることもある。しかし、調子の悪いときというのはむしろ物事を過度に悪く考えすぎるところがあるようにも思うのだ。確かに自分でもおかしな間違いをすると、やってしまったと落ち込むこともある。しかし、体やこころの自然なバランス能力の働きでそうなっているのかもしれない。なんとかそんなふうに考えて、その働きをもう少し信頼して任せてみてもいいのかもしれないと言い聞かせたりもする。
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