寝ている間に夢を見ない人はいない。たとえ覚えていなくても、毎晩私たちは必ずいくつかの夢を見ている。奇想天外に思えるような夢もあるが、よくある典型的な夢もあって、例えばトイレの夢(トイレが見つからない、トイレが汚い、トイレはあるが仕切りやドアがない、ものすごく並んでいてなかなか入れない、などパターンはいろいろ)は、その代表例と言えるだろう。おそらく多くの人が一度は見たことがあるだろうし、中には繰り返しトイレの夢を見る人も珍しくはない。他にも典型的な夢はいろいろとあって、試験の夢、歯が抜ける夢、誰か(何か)に追いかけられ夢、車の運転の夢などもよく聞く。
そんなよくある夢の中のひとつに靴の夢というのもある。自分の靴がない、気がつくと靴を履いておらず裸足だった、あるいはぼろぼろの靴を履いていた、新しい靴を買おうとするが良いものが見つからない、など、これもパターンはいろいろである。夢を見た人がどのような状況にあるのかによって、また夢の具体的な内容によって、夢をどう考えるのかそれぞれ全く異なり、安易な「解釈」はできないが、しかし靴は足に関わるもので、足は立ったり歩いたりすることに関わる。つまり靴は「自分の足で立つ」「一歩を踏み出す」「前に進む」「自分の足で歩く」ために必要な道具であって、そのようなことが問題になっている状況で靴のイメージが出てくることがある。ちなみにこの相談室の前室長の西村洲衞男先生がホームページを立ち上げた時の最初のエッセイでもタイトルは「新しい一歩には新しい靴を!」というものだった。
成長すれば足も大きくなる。それまでの靴はきゅうくつになってしまう。時々、そんな状態でカウンセリングに来る人がいる。つまり、その人自身が成長してきたからこそ今までのやり方では上手くいかなくなっているところがあるのだが、その成長に合わせた変化・変更がなされていない、そこでごたごたしている。今の自分にあった靴を履いて自分らしい新しい一歩を踏み出すことを考えなければならないのに、当の本人が自分の変化や成長に気がつかず、新しい靴を探すことの必要性を意識していないことがある。他にも、新しい靴を探すことを面倒に思ったり不安がったり、今までの古い靴がもうきつくなっているのにいつまでも執着していたりするような場合もある。足に合わないきゅうくつで古い靴のままでいることで痛い思いをせざるをえないこともある。こういう場合、自分にあった靴を探して、それをすんなり履けるようにすることが必要になってくる。
足に合った靴こそが、一番歩きやすく疲れにくい。「新しい一歩には新しい靴を」必要とするものなのだ。
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