· 

アナログでオーダーメイド

 少し前、5月なのに暑く湿気を感じる夏のような日が続いた。もともと暑さが苦手で夏嫌いなこともあり、さわやかな空気を感じられるはずの5月にもう夏かとうんざりするような思いを抱いた。

 昨年の夏の終わりに、知人から扇子をもらった。月と日の絵が扇面に描かれた、ちょっと変わった扇子だが、彼女が言うには私のイメージにぴったりだとのことで、ぜひ使って欲しいと渡された。

 それまで日常的に扇子を持ち歩いて使うようなことがなく、またもらった時はすでに夏の終わりだったこともあり、せっかくのプレゼントを使ってみる機会がなかった。しかし夏のような暑さで彼女からの扇子を思い出し、持ち歩いて使ってみることにした。

 はじめは自分が扇子を持っていることすら忘れていたりもしたのだが、使い始めてみるとなかなか便利なものだと思うようになった。軽くてカバンに入れてもかさばることがなく、気軽に持ち歩ける。必要な時にさっと取り出し、いつでもどこでもそれなりに涼しさを得ることができる。

 数年前から夏になると小型の扇風機(ハンディファン、と言うらしい)を持ち歩いている人を見かけるようになった。扇子は自分の手であおがねばならないアナログの道具だが、ハンディファンは電動である分、扇子より楽に涼しさを得ることができるのだろう。ずいぶん小さく軽いものもあるらしく、値段も手ごろなようだ。しかし個人的にはどうにも使う気にならない。扇子を使いはじめてみると余計にその思いが強く、それをあえて言葉にすればハンディファンの実用的で便利なところが「あんまりかわいくない」というところだろうか。ただ使ってみると、扇子は面の絵柄が様々でおもしろく、実用一直線の小型扇風機(ハンディファン)にはない選ぶ楽しさ、使う楽しさがあるように思うのだ。

 新しいものを取り入れることに慎重で頑固な性格の影響もあって、便利で実用的なハンディファンより扇子の方が、となるのだと思う。ただ、そこをあえてプラスに考えてみると、カウンセリングも実用や効率という考え方からは距離を置いたところにある営みであり、こういう性格傾向が今の仕事にそれなりに活かされているところもあるのだろう。

 カウンセリングはひとつひとつの問題をその人の、その時の、その場の状況に合わせて考えていく。もちろん、様々な理論や考えがあり、「方法論」「型」のようなものはある。しかし基本的には個人に合わせたアナログでオーダーメイドの営みだ。時間はかかる。面倒で非効率的な作業でもある。しかしその人だけのオリジナルな生き方を探すためには必要な過程だと思っている。

 

 

〈次へ  前へ〉