欲しい本があるとついネットで購入してしまうが、それでもたまにふらっと本屋に入ることがある。とくに目的もなく本屋の中をぶらぶらしていると面白そうな本を見つけることもあって、やはり本屋に来るのはいいものだなと感じる。
少し前、そんなふうに本屋でぶらぶらとしていた時に、日本中の大きな木を紹介した本を見つけて、すぐに購入した。木が好きで、かといって詳しい知識があるわけではないのだが、外を歩いていると木に目が行くことが多い。どんな木も好きだが、やはり大きな木には特別な魅力を感じる。時間があるとこの本を適当に開いているのだが、いちど実際に見に行ってみたいと思うような木がたくさん紹介されていて、つい夢中になって見てしまう。
ずいぶん昔のことだが、木を見るためだけに東北地方を旅したことがある。JRのポスターにも採用されたという大きな木を見ることが一番の目的だったが、ついでだからとネットで調べて他の大きな木も見に行った。ただ、大きな木というのはたいてい山の中など、行きにくい、見つけにくいところにある。お目当ての木を探すのにずいぶん苦労した。おおよその見当をつけて近くまで行ったとしても、そこから先が分からない。地元の人に聞こうにも、人もあまりいないようなところで、結局あきらめて帰ってきたことも何度かあった。本屋で見つけた木の本には詳しい行き方の説明もあったのがありがたかった。東海地方の木もいくつか紹介されている。暇を見つけて見に行きたいと思っている。
連休中に遠出をし、そのついでにと本に紹介されている木を見に行った。樹齢約300年の「アコウ」という木だ。この本に紹介されている木の中では比較的若い木だが(樹齢1000年を越える木がたくさん紹介されている)、十分大きく、迫力があった。道沿いに立つ小さな神社の横にある木で、「アコウの木」と看板も立っていて、迷うことなくすぐに見つかった。地元では有名な木のようだ。
アコウの日本での北限は紀伊半島らしく、相談室のある名古屋市近辺では見ない木だ。ガジュマルに似て枝から根が垂れ下がっているのが特徴的。また、イチョウのように雌雄の木があるとのことで、普通サイズのアコウの木もあちこちで目にしたが、イチジクのような実がついているのもあった。調べてみるとアコウもガジュマルもイチジクの仲間でクワ科に属する木なのだそうだ。
5月の始め、芽吹きの時期だというのに、すべての葉が散っており、近所の人が5~6人で落ち葉を掃いて片付けていた。私が熱心に木を見ていると気軽に話しかけてくれ、いろいろ教えてくれた。地元の人によればアコウというのは「不思議な木」で、年に2、3度、落葉するのだという。しかもその時期は一定ではなく、同じところに並んで立っている木でも、片方は葉が青々としているのに、もう片方は落葉、ということも珍しくないらしい。ちなみに実は食べられないとのこと。いつ散るかよく分からず、自分のペースで好きにやっている感じがして面白いと思った。
近所の人が集まって、皆でわいわいとしゃべりながら掃き掃除をしている様子を見ていると、このアコウは人と共に生きている木だという感じがした。人里離れたところで凛として立っている木もいいが、こうやって人の近くにいる木を見ると、木は人と共にあって、静かではあるけれど人のこころに影響を与えているような存在のように思えた。
〈次へ 前へ〉