三つ子の魂

長谷川泰子

 

 先日、このホームページでも案内を掲載した矯正協会主催の事例検討会に講師として呼んでいただき、東京での会に参加してきた。参加者の意欲的な姿勢に引き出されていろいろな考えが浮かび、多くの刺激を受けた会だった。

 当日は数人の方と昼食を共にしたが、その時のおしゃべりで小さい頃にどんな景色を見て育ったかという話になった。私は平野育ちである。田んぼや畑に囲まれた、民家の少ないのんびりしたところで幼少期を過ごした。山ははるか彼方にあるもので、今でも山が近くに見えると、どこであっても遠くに来たという思いを強くする。しかし山の近くで育ったと人だと、山がないところでは平らということが強く意識されるらしい。民家さえもまばらな、だだっぴろい田舎の平野で育った私には、高いビルがたくさんあるような東京はとても平らな場所だとは感じられないが、山の近くで育った人には東京は平らなところと感じられるようだ。「三つ子の魂百までですね」という話になったが、こんなささいなことでも小さい頃の経験はその後の見方・考え方に大きく影響を与えるものだと知ることができる。

 

 事例検討会は、矯正会館(かつてあった中野刑務所の跡地に建てられている)で行われ、日ごろ矯正の仕事に従事されている人たちも多く参加してくれた。心理臨床の仕事をしていると「三つ子の魂」に苦しみながら今を生きている人々と出会う。今回の会では事例を通して、また参加の方々との議論によって、「三つ子の魂」と格闘しながら生きる人々のこころと、そこに関わる人々のこころに触れることができ、矯正施設に対して持っていたこれまでのイメージを新たにして帰って来た。

 

 

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