歩きの速さ

長谷川泰子

 

 相談室にはいつも車で来ているが、時間に余裕がある時には公共交通機関で来ることもある。こういう時はせっかくなのでたくさん歩こうという気持ちになり、帰りは近いところだと鶴舞まで、もう少し遠くまでと思えば金山や栄まで歩く。今日は時間にも体力にも余裕がありそうだという時には、思い切って名古屋駅まで歩くことにしている。

 座りっぱなしの仕事であまり体を動かすことはないのだが、この仕事は体力が重要だと思っている。重い話、辛い話、悲しい話を聞くためには、それを受け止めるだけの心と体の力がいるのだ。それだけではない。話を聞いて自分が思っていること・考えていることを言おうとする時には、自分から一歩踏み出す主体的な姿勢が必要になる。その一歩を踏み出す気持ちを支えるのは実は体力だと思う。

 アスリートではないから厳格でストイックな姿勢は必要ない(逆にマイナスになるかもしれない)が、年齢相応の体力はそれなりに維持しておこうと、ちゃんと食べて寝て、できるだけ走ったり歩いたりしようと心がけている。

 相談室から歩く時はいつも細かいルートは決めない。道中、スマホを使って調べたりもせず、車の通りの少ない歩きやすそうな道をその場その場で適当に選んで歩いていく。これが結構楽しい。こんなところにパン屋があるんだとか、ここにこんなに立派な木があったんだとか、毎回ちょっとした発見がある。

 先日、久しぶりに名古屋駅まで歩いた。今回は、住宅街の中に焼き菓子の店を見つけたり(後で調べたら不定期に週1~2日程度しか開けないという店で、その場でお菓子を買っておけばよかったと後悔した)、刺繍工芸の店(シャッターが閉まっていて中の様子がうかがえず残念だった)、書道道具の専門店などを見つけた。相談室から名古屋駅まで、様々な町、路地を通り抜けていくと、その場所の雰囲気を体で感じる。相談室の周りと、栄や名古屋駅付近では空気が全く異なっている。歩くスピードだから見えるもの、体験できるものがあると思う。

 

 

〈次へ  前へ〉