長谷川泰子
先日、前室長の西村洲衞男先生を偲ぶ会が相談室の近くにある法音寺で行われた。亡くなられてからもう3年が過ぎてしまったが、やっとこういう会を行うことができてほっとしている。
会の後に檀渓心理相談室に来てくださった方も多くいて、皆で西村先生のことをあれこれ話した。その時、西村先生は最後にどんな夢を見たんだろうという話になり、ひとつのエピソードを思い出した。
西村先生は最後にホスピスに移られたが、そこの看護師さんから、先生がこういう夢を見たと筆談で話をされたと聞いたことがある。咽頭がんを患われてのどを取り除く手術をされ、声を失い、会話はすべて筆談であった。ホスピスに入ってからは手を挙げる力も徐々に失って字を書くことも難しくなり、筆談のために書かれた字は判読不可能になっていったようだが、それでも西村先生は看護師さんに伝わるまで何度何度も根気強く書き直されていたそうだ。看護師さんに話された夢の内容は聞かないままで、今となっては残念な気もするが、聞かないままで良かったのかもしれないとも思う。その方がそれぞれが持つ西村先生のイメージに従って、それぞれに考え続けることが可能だ。
看護師さんから聞いたエピソードを思い出し、西村先生は最後まで一貫して、夢を見て、それを報告し、考え続けたのだと思った。書く力はなかったかも知れないが、先生らしいパワーを感じる。西村先生は最後まで無意識に目を向け、ホスピスのベッドの上でも自分の「生き方」を考え続けていたかもしれない、そんなふうに考えた。