日常から抜ける

長谷川泰子

 

 檀渓心理相談室に来るには、地下鉄の駅から少し歩く必要がある。10分もかからない距離だが、少し歩くことには変わりはない。名古屋市の中心地、名古屋駅近くや栄に位置しているわけでもないので、交通アクセスを考えてこの相談室を選ぶという人は少ないだろう。駅から遠いわけでもないし、コインパーキングは周りにたくさんあって、料金がそれほど高額なわけでもない。不便なところにあるのではないが、ほとんどの人は多少の時間をかけて来室していると思う。

 遠くはないしアクセスが悪くもないけれど、来るのにちょっと時間がかかるというのが心理相談室にはかえって理想的なのかもしれない。相談室の面接室は、外の世界で普段しないような話、言いたくても言えない話、決して言いたくない話、言いたいと思ってもいなかった話などをむしろ積極的に話すところだ。日常生活とは異なる非日常の場であって、非日常だからこそ日常では言わない思いを言葉にできる。だからこそ相談室は自分の生活のエリアから少し離れたところにあって、少し時間をかけて行き帰りするぐらいがちょうどいい。日常の空間から脱して非日常の世界に入り込むのにも、非日常から日常に戻っていくのにもそれなりの時間とプロセスを必要とするはずだ。

 

 

 相談室の前を流れる山崎川沿いの桜は今日あたりが満開である。この時期はいつもより非日常感が増しているかもしれない。

 

 ※今日3月29日、檀渓心理相談室の近くの桜

 

 

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