ふたつ良いことさてないものよ

長谷川泰子

 

 失敗した!と思うことがあった。いろいろとごたごたして、しばらくの間、どうして自分はあんなことをしたのだろう、と考えたが、考えたところで分からない。どうしたらこの失敗を取り戻せるかも分からない。あれこれ考えて、やっぱり考えたって分からない、出たところ勝負で行くしかない、と思った。やけになったわけではない、事前に考えたって想定どおりに進むわけはない、その時の状況を見てその場で考えるしかない、と思った。

 河合隼雄先生がよく本に書かれていたことを思い出した。「ふたつ良いことさてないものよ」。何かの問題に対して、100%すべての人に対してプラスになるような良いことずくめの解決方法はない、物事には必ず良い面と悪い面があるもので、良いところしか見えてないときはかえって危ない、というようなことだ。物事を一面的に見るのではなく、様々な角度から、広く客観的に見ることの大切さを言われていたのだと思う。

 ということは「ふたつ悪いことさてないものよ」ということだって言えるはずだ。うまくいかなかったこと、失敗や間違いを経験するとどうしても気分が落ち込み、自分や誰かを責めたくなる。その気持ちを無理に抑えることもよくないけれど、そこだけにとどまるのではなく、物事を広く客観的に見てマイナス面ではないところを探すことも大事だと思う。

 失敗した、間違えた、と思うようなことがあったときは、それを何とかしようとあれこれ考える。いろいろな人に相談するかもしれないし、自分自身でも様々に知恵を絞る。いつもとは違うパワーが発揮されるときだ。こういうことから流れが変わることも多いのだ。今まで見えていなかったところが見えてきたり、できないと思っていたことが意外とやれると分かったり、人と深く関われるようになったり、逆にずるずると続けていたことを思い切りよく手放すことができたりする。

 

 と、ここまで書いてきて、そういえばこないだもエッセイで同じようなことを書いたと気がついた(「仕切り直し」)。ついこないだ書いたことなのにすっかり忘れていた。改めて読み返して、同じようなことだし書き直した方がいいかとも思ったが、それはやめにした。どちらもそれぞれ本当に体験して本当に考えたことだ。

 

 それにしても同じようなことをまたすぐ書くなんて、最近はよほど失敗や間違いが多いらしい。それも仕方がないかと思っている。ここ最近、自分のことでも自分の周りでもいろいろな変化があっていろいろとどたばたとしている。いつも通りいかないことも多い。そのたびごとにあれこれと考え、また一歩を踏み出しての繰り返しだ。

 3月は変化を経験しやすい時だ。私の周りでは引越し予定の人が何人もいる。いつも近くにいた人が離れていくのに淋しさがないといえば嘘になるが、「ふたつ悪いことさてないものよ」である。次の展開を待とうと思う。

 

 

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