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吉田雅夫のフルート

長谷川泰子

 

 毎朝、出勤時の車の中でNHK FMのクラシック音楽の番組を聴く。曲と演奏者の簡単な紹介と音楽だけのシンプルな構成なのが気に入ってすっかり朝の習慣になっている。今朝は「NHH交響楽団が1960年に世界一周の演奏旅行に出かけたときの貴重な音源」という紹介で、ヨーロッパでの演奏会の録音の放送があった。50年以上前の古い録音だ。

 この演奏旅行では、訪れた国の作曲家の音楽を演奏した他に、この演奏旅行用に外山雄三が作曲した「管弦楽のためのラプソディー」を演奏したそうだ。今朝の番組でもポーランドのワルシャワでの録音が流れた。海外での演奏を念頭において日本の民謡をふんだんに取り入れた曲とのことで、よく知っている「あんたがたどこさ」や「ソーラン節」のメロディーが取り入れられている。

 曲の紹介で「信濃追分」のメロディーのフルートのソロは吉田雅夫だと聞き、はっとした。吉田雅夫は西村洲衞男先生が好きな演奏家だった。先生がホスピスに移られる前、企画はしたけれども実現できなかった「お別れの会」のために西村先生は文章を用意した。来た人に渡す文章のつもりだったようだ。吉田雅夫について書かれたものらしいのだが、その文章の入ったUSBメモリーはその後行方不明になったという。先生が最後に何を書かれたのか、その文章は誰も読むことがないままになってしまった。残念で仕方ない。

 

 来月に西村先生の三回忌を迎える。先生の文章は読むことができなかったが、その代わりに先生が好きだった吉田雅夫のフルートを聴こう、そんな気持ちになった。

 

 

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