スーパービジョン

長谷川泰子

 

 前回、スーパーバイザーになることについて書いたので、今度はスーパーバイズを受けることについて書こうと思います。

 スーパービジョンで個人指導を受けることは、もちろん技術の向上につながります。スーパーバイザーから自分では見えていなかったところについて指摘を受けたり、適切なアセスメントをしてもらったり、具体的な対応について教えてもらったり、それを繰り返すことで、自分よりも経験のあるスーパーバイザーの視点を少しずつ取り入れていくことができます。特に初心者のうちは経験も浅く、不安も大きいものです。頼れる人がいることは重要です。

 しかしスーパービジョンの効果はそれだけではないと思うのです。スーパービジョンでは自分のやっていることをスーパーバイザーにチェックしてもらいます。そのためには毎回、面接の記録をまとめて資料を作らなくてはなりません。スーパービジョンの時間は、自分のやっていることを客観的に見る時間でもあります。これを定期的に長く続けることで、自我の強化につながると思うのです。臨床心理士としてのしっかりとした“自分”ができてくるのです。

 河合隼雄先生がどこかの本に書いていましたが、アメリカに留学しクロッパーに指導を受けていた時、臨床心理学専攻の学生たちがどうして専門以外の心理学や統計学の授業を受けないといけないのかとクロッパーのところに抗議に来たことがあるそうです。クロッパーは簡潔に「臨床家の自我強化のため」と答えたとのことでした。

 私のスーパーバイザーの先生はとても熱心に丁寧に指導してくれ、スーパービジョンは毎回短くて2時間、3時間は当たり前でした。毎回、スーパービジョンの前はきちんと腹ごしらえして、気合を入れて臨んでいました。初めてスーパービジョンに行ったときは13時に始まり、終わったのは18時、なんと5時間もやっていただきました。このことを聞いた西村先生は、さすがにびっくりしながらも「そのぐらい強い自我がないとだめなんだ」と言っていたのを今でもよく覚えています。長時間、集中できる自我の強さが必要だということなのでしょう。

 臨床心理士にはもちろん知識や経験も必要ですが、何といっても自我の強さ、自分がしっかりあることが重要なのだと思います。いくらスーパーバイザーが付いていると言っても、面接でクライエントの話を聞いているときは一人です。その場で考え、一人で判断しなくてはなりません。ゆっくりと焦らずに構えていられる自我の強さが必要です。教育分析やスーパービジョンが強く勧められるのは、一対一で指導を受ける場に通い続けることが自我の強化につながるところがあるからではないかとも思うのです。

 何を学ぶか、もちろん中身も大事ですが、その場に通い続けるという行為も重要なのではないでしょうか。極端に言えば、通い続けるだけでも自我の強化につながるところがあるとも言えると思うのです。教育分析もスーパービジョンも、そしてカウンセリングもそうですが、自分自身を客観的に見る機会を持とうと決めること、決められたことがすでに大きな一歩となっていると思います。

 

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