仕切るとまとめる

 河合心理学では、父性原理の切ると母性原理の包むという二つの相反する原理が一人の心の中で働いていて、その程よいバランスが重要であると考えられている。

 自己実現とはその二つの原理を程よく統合していくことであると考えられる。しかし、自己実現の過程では様々な困難が待ち受けている。

 私たちがグループの人間関係の中にあって、人びととの関係をもって生きようとするとき、人びとの気持ちを手探りで量りながら進まねばならない。人びとのわかりにくい気持ちを察しながら動くとき、無意識の態度が現れやすい。そこで働いているのはアニマ・アニムスである。男性の場合はアニマ、女性の場合はアニムスである。

 このアニムスが程よく働いていると良いが、大抵の女性、特に積極的な女性は父親的なアニムスが働き、男性では母親的なアニマが働く。その結果、女性が人間関係に対処するとき父性原理の切るという機能が働きやすい。それは事態を仕切るという形で現れる。一方、男性では母親的なアニマの母性原理が働くので、包む機能が働く。それはみんなをまとめるという形で現れる。

 男性のリーダーはみんなをまとめ、女性のリーダーはうまく事態を仕切って動かしていくのである。まとめられたり、仕切られたりするともはや違う意見は通りにくい。みんなリーダーの導くままになりやすい。

 ここで大切なことは、リーダーが聞く耳をもっているということである。仕切られてもまとめられても不満は生じやすい。そこで如何にもっと異なる見解に視野を広げるかが問題である。

 父親的なアニムスと母親的なアニマでは、身近なことにしか目が向かない。もっと視野を広げるには父親とは違う本当の異性に視野を広げなければならない。何者かわからないような相手、その人を理解する力がグループをより広い視野で引っ張っていくのではなかろうか。

 

 厄介なのは、アニマ・アニムスの働きが衝動的で気持ちを支配したときや変化するときである。アニマ・アニムスが強すぎると、自分の感情によって、グループをまとめたり仕切ったりする。あるいは、その変化に伴ってリーダーが愛する人も違ってくるので、今まで尊重されていた人がされなくなり、代わりに誰かが引き立てられる可能性があることである。リーダーシップを持って、感情的に行動しようとする人はアニマ・アニムスに合った人びとに投影し、無意識に贔屓する人、しない人が出てくることにある程度気づきながらも、それがやりやすいために周りの人の気持ちを無視してしまう。アニマ・アニムスの処理が厄介なのはそのためである。リーダーの冷静な判断が大切なのはその点であろう。