ものの見方の違い

『絶歌』を読んで、これは素晴らしい本だと思った。私は個性的らしいから世の人々からどれくらい違っているかを知るために『絶歌』に関するサイトを覗いてみた。

一番に目についたのは香山リカさんの批評で、彼女の見方では元少年Aは昔の精神病質というものであった。確かに昔、犯罪者には全て精神病質というレッテル貼りがなされた。今では精神病質には特異な脳の病変が見出されているのでそれを知らねばならないというのが香山さんの意見であった。

精神病質という言葉を使う精神科医なら、『絶歌』の方々に書かれている離人体験に注目するはずだ。元少年Aが経験していた離人感はかなり顕著なもので、注目に値する。離人感が殺人事件にどのように関与していたのか臨床心理士の私としては一番興味を惹かれるところだ。

元少年Aは、青空が青い絵の具で塗ったようなとか、食べ物の味がわからないから、ガソリンを飲んで生きられるならそのほうが良いという記述まである。そうなれば、猫殺しや殺人の時、酷いとか可愛そうという感情が働いていたかどうか疑わしい。猫殺し場面の気持ち悪くなる克明な描写は離人感の故に可能なのだろうと思った。離人感は殺人の気持ち悪さも消してしまうのではないか。その辺の精神病質と離人症の違いを精神医学の大御所笠原嘉先生に聞いてみたい。

香山さんの意見は見方も文章も酷かった。このような人を使うマスコミ関係者は精神医学をもっと勉強してほしい。けれども症状の背後の心理学を失って分類学になってしまった現代精神医学を学んでも元少年Aの心理理解には役には立たない。困った時代だ。

カスタマーレビューの5段階の評価の人々の意見は1か0に等しく極端だった。感情的で客観性に乏しい。

4段階評価の人の意見は概ね元少年Aを良く評価している。しかし、内容についてはまだ未熟だとか反省や謝罪が足りないとか自分に陶酔していると見られており、もう一段上の成熟を求めるところがあった。百点満点を求める人の意見だ。私からみたら良識的な人の意見も百点満点の観点からの意見で、こんな高みから見られたら普通の生き方をして間違いばかりしでかしている生きた人間はたまったものではない。息苦しくて仕方がない。この人達は5の成績ばかり取った人ではないか、人は大方未熟であり、自分に忠実であるほど自己陶酔的に見えるのではないかと自分を慰めたい。

その下の評価は見る気がしなかった。私の評価は現時点では百点で、被害者の許可を得ないで出版した点が問題だとする意見にも与しない。彼が言うように原稿を読んでもらって許可されないならこのまま出すと決心した彼の意見を認めたい。事件後18年も経ち、毎年1ヶ月も懸けて謝罪文を書き続け、まだまだと言われ続けた元少年Aの気持ちも理解すべきではないか。

この本は未完成であろうが、これまでに起こったいくつもの少年事件を理解するために元少年Aから出された貴重な資料として評価したいと思う。

それにしても、弟の親友の殺害といじめの連鎖と母親の長男への厳しい躾の関連性が全く書かれていないのは残念で、これから後に書いて欲しい。